? 湖畔にて――ハボリム×シェリー
譜面の落書き
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 Cルート4章の死者の宮殿攻略後、ボルドュー湖畔でのハボリムSSです。

ライン

 
 どこか遠く虫の声が響く湖畔。皆が寝静まった夜更けに、ハボリムはひとり水面に身体を沈めていた。
 戦いの日々も終盤に差し掛かり、本懐を遂げる時も近い。王都で待機する本隊と合流すべく少々無茶な移動をしていたが、「もーいやッ! 今日はここで休むッ!」と異国の魔女がごねたのをきっかけに野宿と相成った。

「……しかしまぁ、少々不便だな」

 ぷかりと浮かび上がり、愚痴を漏らす。
周囲は忘れているかもしれないが、何しろ盲た身だ。身を清める事ですら難儀で、醜態を晒さぬよう行動は自然、夜半になる。ごみ同然に放逐された頃を思えば幾分ましになったとはいえ、ご婦人も多いこの軍では気を遣う事が多かった。だが、それでも。

「あら、月見の入浴なんて洒落てるわね」

 宿ではなく野営だと、こんなニアミスを犯してしまう。
シェリーは軽い足音で忍び寄り、こちらの動揺もお構いなしに呼びかけてきた。見つかっては仕方がない。身体を起こし、岸辺の彼女と向き合った。

「今夜は月が出てるのですか? ……生憎判らないもので」
「ああ、ごめんなさい。貴方を困らせる為に言った訳じゃないのよ」
「構わないですよ。ところでこんな時間、どうして此処へ?」
「……眠れなくて、ね……」

 彼女の声に、自嘲の響きが篭る。それはいつも強気な彼女の、危うい脆さが表れていた。

「……申し訳なかった。ひとりの所を、こんな先客が邪魔をして」
「ふふ……気にしなくていいわ。眼福に与れたし」
「その……今更なんだが、服を取ってくれないか? 私は早々に退散するから」
「どうして? どうぞゆっくりなさって」
「いや、見苦しい姿を晒し続けるのも宜しくないだろう」
「本当にいいのに。……そうだわ」

 刹那聞こえる、衣擦れの音。

「ご一緒してもいいかしら……?」
 不穏な囁きが耳に突き刺さった。

 こんな事で狼狽する程、若くはない。だが彼女の真意は掴みかねた。何の気負いもなく彼女は服を脱ぎ捨て、静かに水面へ脚を入れる。

「思ったより冷たくないのね。丁度いいわ」
「シェリー」
「貴方があまりに気持ちよさそうだったから、私も……」
「……そうか」
「もちろん他の男となら、こんな事しないわ。貴方だって私の身体を拝もうものなら、岩で潰してやるんだから」

 冗談ともつかない台詞を口にして、徐々に近付いてくる彼女。微かな波紋が身体を嬲る。冷たい指先が、胸に触れた。

「綺麗ね」
「まさか」
「本当よ。ねえ、どうして髭を伸ばしてるの? 折角の美青年が勿体ないわ」
「あまりからかうな。髭は……自分で剃るのも面倒で、不精の末だ」
「その所為で最初見た時、父と同じ位の歳かと思った」
「それは酷いな。モルーバ殿にも、私にも」

 小さな苦笑が互いの口から漏れる。静かな夜に感じるのは、彼女の存在だけ。それは久しく忘れていた、甘く疼くような感覚。 
 彼女の指が背中へ滑る。冷たく柔らかな身体が絡みつき、思考をあっけなく遮断された。

「……何も言わないのね」
「……言うべき言葉など、私にはない」
「言ってくれるじゃない。でもその素っ気なさが、今は楽だわ」

 引き寄せられるまま、口付けをひとつ。何処にも想いが向いていない、傷の舐め合いのようなぬくもり。流れてくるのは彼女の唾液と痛み。悩ましい程艶やかなのに、それは酷く虚ろで。
――困るんだ。頼むから無防備にさらけ出さないでくれ。私はそんなに、聖人君子じゃない。
 彷徨う腕は拒絶せず、抱き締めもせず。反応のない木石のような男に、彼女は飽かず唇を求めた。

 緩やかに互いの口内を行き来する舌。駆け引きもなく、熱情もなく。ただざらつきを擦り付け合い、痛みを共有する。
 
「……ッ、んぁ……。貴方、真面目な顔して質が悪いわ」
「……それは褒めてるのか、貶してるのか?」
「けなしてるに決まってるでしょう。傷心の女を受け留めるでなし、拒むでもなし。一番罪作りでろくでもないわ」
「耳に痛いな。だが貴女を受け留められる程器が大きくないんでね」
「なら、拒みなさいな」
「拒む程、私は枯れていない」
「本当に最低ね」
「まったくだ」

 答えがお気に召さなかったのか、彼女はむっと唸った後首筋に唇をあて強く吸う。止める間もなく付けられた鈍痛に、跡の鮮やかさが窺い知れた。慌てて手で抑えるも振り払われ、鎖骨に胸にと次々跡を残していく彼女。

「これは、酷いだろう。明日私はどんな顔して歩けと」
「ふふ、いいザマだわ。このまま残すのもヒーリングを頼むのも、どっちも見物ね」
「……質が悪いのは、貴女じゃないか」
「貴方がいけないのよ?そんな無防備に漂ってるから……」
 彼女の指が脇腹を辿り、舌がちろりと胸を舐める。

「……私なんかに捕まった。悪いけど今夜は、八つ当たりさせてね」
 乳首を甘噛みされて、不覚にも息が上がった。灯されてしまった快感は、もう消えそうにない。

「身体を拝んだら、岩で潰すんじゃなかったのか」
「ええ。でも貴方見えないでしょ?」
「見えずとも判るさ。……こうして触れていれば」

 彼女を抱き締めると、華奢な肩が微かに震えた。無防備はどちらだ。身体を、心を、そんな簡単に明け渡すな。手加減が出来なくなるだろう? もっともそんな気遣いなど、とうに失せてしまっているが。
 髪に指を絡め、噛み付くような激しいキスを彼女に。彼女の躊躇いの声は侵略する舌に潰され、外に響くことはなかった。

 暴れる舌を捻じ伏せて、思うがままに蹂躙する。彼女の吐息はシャシャのように身体に染み、理性を容赦なく削っていく。
 綺麗に並んだ歯列を辿り、口蓋に触れ、内壁を余さず暴き立てる。唾液がこぼれ胸を濡らす程になって、ようやく彼女を離した。

「……ねぇ、髭を剃る気はないの?」
「特にないな。どうして?」
「キスに邪魔だわ。ちくちくして、口に入ったりするんだもの」
「生憎こんな爺むさい男に言い寄る、物好きな女性はいなくてね」
「あら素敵。私の場合、その皮肉はどこにかかるのかしら?」

 つんつんと髭を引っ張る彼女に、思わず笑みがこぼれる。彼女をまた引き寄せ、額にキスをひとつ落とした。

「一夜の気まぐれとはいえ、物好きに違いはないだろう? 貴女は、酔狂でとても素敵な女性だよ」
「それは褒めてるの、けなしてるの? 本当に食えない男ね」
「もちろん褒めてるよ。……さぁ、そろそろお喋りは止めよう」

 唇は耳の柔らかさを、手は背中の滑らかさを、胸の弾力を確かめる。あれ程冷たかった身体は水に濡れ、熱を持ち。何処も彼処も、冗談のように手触りが良かった。
 濡れ髪を優しく払い首筋に唇を這わす。折れそうな鎖骨を辿り、窪みから胸の膨らみへ。質量感溢れる双丘は手の中で自在に形を変えながらも、どこか頑なな張りを残している。
 口に含めば緩やかに硬度を増す頂き。丹念に舐め上げる度、彼女の鼓動が高まり切なげな喘ぎが漏れた。

 髪をまさぐる細い指が、時折乱れ快楽と催促を知らしめる。溺れるように顔を埋め貪る。そして、思い出したように悪戯の刻印を左胸にひとつ。びくりと震えた後、彼女の手が額を軽く打ち払った。

「どうしてそう悪さをするの」
「服の上からは見えないさ。それにまぁ、先程のささやかな仕返しをね」
「悪い男にはお仕置きするわよ」
「それは怖いな」

 彼女の手が脇腹から水面へ沈み、硬く起立する男性器に触れる。焦らすように幹を撫で上げた後、不意に強く全力で握られた。

「――――ッ!」
 突如襲った激痛と快感。思わず腰が引けると、逃がさないとばかりに彼女の腿が脚を割り、袋を柔らかく押しつぶす。
 力を緩め艶めかしくうごめく指。擦り上げ握り、先端を押されると、抗えない程の刺激に苛まれた。

「一度、その澄ました顔を崩してみたかったのよ。……いいわね……ゾクゾクする」
「……私だってただの男だ。それより残念だな」
「何が?」
「今日程、貴女の顔を見たいと思ったことは、ない」
「“見えずとも判る”んじゃなかったの?」
「ああ、それでもだ」

 唇は再び塞ぎ、互いの胸を密着させ、彼女の尻を掴み後ろから中心を撫で上げる。薄い襞の奥の肉は指に吸い付き、水とは明らかに違うぬるみを纏わりつかせた。すぐに流されてしまうそれを何度も絡め、一番敏感な芽へ塗りつける。
 何度も震え、徐々に力を失くしていく身体。そしてより熱を帯び、おぼつかなる指。彼女の手がただそれを握るだけになった頃、唇を離し侵略の許可を請う言葉を囁いた。

「……今更だけど、少し気になるわ。水が、変な感じで」
「貴女も可愛らしい事を言うな。ならば、岸にあがろうか?」
「ん……いいわ。誰に見られてるとも限らないし」

 やっぱりちょっと、恥ずかしいじゃない? と耳をくすぐる彼女の言葉。本当に、罪作りな女性だ。そんな事を言われて、正気でいる男など何処にいる。
 彼女の左腿を高々と抱え込み、切先を入口へとあてがう。しなやかな腕が首筋に絡みつき、彼女の香りが雄の本能を煽り立てた。
 
「ッ――――ゃぁあああッ!」
 突き入れた瞬間、強く肩を噛み何かを懸命に堪える彼女。その痛みも、ぬめりを流されひたすらに圧迫する内も、時を止めるのに充分な刺激。
 身動ぎ出来ずに、波が収まるのを待って幾刹那。

「……ぁ、凄い……。貴方が、なかで 動いてる……」
 彼女の呟きに追い立てられ、淫靡な音を撒き散らし抽迭を開始した。

 不安定な姿勢で無理やり突き動かす睦みあい。通常なら潤滑油となる互いの体液も、抜き出す度に洗われ内は軋むようにきつい。貫き上へ擦りつけると、彼女の身体は揺らぎ離れぬよう必死でしがみ付いてくる。
 漏れぬよう堪えても出る喘ぎ、暴走する鼓動。その彼女の全てが、狂おしい位に愛しい。唇を求めては喰らい付かれ、快感は更に天井知らずになる。
 熱くて熔けてしまいそうだ。もっと強く、もっと奥へ。もっと、もっと尽きるまで――。

 長い長い戯れは、彼女の身体が痙攣し、力なく倒れこんだ事で終わりを迎えた。


「……シェリー……? 大丈夫か?」
「この、ケダモノが……。でもありがとう。今夜は何も考えずに眠れそう……」
「待てシェリー、まだ寝るな」
「……ぅん……無理……よう……」
「頼むからッ! シェリー!」

 叫びも虚しく、腕の中で安らかな寝息を立てる彼女。仕方なしに彼女を抱き上げ岸辺に戻り、よく判らないローブに苦戦すること数刻。結局出鱈目な着せ方をしたシェリーを担いでテントに帰ったのは、明けの鶏が鳴き出す頃だった。
 出迎えてくれた同室のオリビアの視線が、質量を持って突き刺さる。

「……その……本当に済まない」
「何が、と聞くのも野暮ですね。でもいいんです。姉のこんな穏やかな寝顔、本当に久しぶりだから」
 彼女を受け取ると、素早く身支度を整えて寝台に寝かしつける彼女の妹。その手際の確かさに、改めて頭が下がる思いだった。

「さて、ハボリムさんもいいですか? その姿は、ちょっと艶めき過ぎですよ」
「……そんなに、その……酷いか?」
「ええ。あまりに、目の毒です」
「重ねて申し訳ない。頼んでいいか」

 ヒーリングの柔らかな温もりが身体を包む。情事の後始末を妹にさせるという、なんとも情けない結果でこの夜が終わった。




 彼女が本当は“いいんです”と思ってなかったのを、自分のテントに戻るなり思い知った。既に起きていたミルディンは、軽く息を飲んだ後、「ちょっと」と呼び掛けてくる。
 腕を肩に廻し、辺りを憚るように囁く彼。

「貴方も隅に置けないですね……今日はこのマントを使いますか?」
「……その意味を、聞かない方がいいのかな」
「首元にひとつですから、そう目立たないと思いますが……この軍にはうら若い少年や、何時までも子供の困った人がいますからね」
「……はぁ。自業自得とはいえ、こんな事はもうご免だな」

 大人しく見えて、やはり彼女の妹。姉に不逞を働いた男へ、しっかりと報復をしていたのだ。
 最初の発見者がミルディンだったのは、せめてもの不幸中の幸い。これが未だいびきを上げるギルダスや、リーダーの少年だと思うと……胃が痛い。
 何故、こんな気苦労を背負ってしまったんだろう。

「さて、今日の荷物番は貴方に決まりですね。全部背負うと相当重いですから、覚悟して下さい」
「あまり虐めないでくれ。頼むから」
「果報者にはそれ位で丁度いいでしょう。……ああ、もう朝食ですね。行きますか」

 テントを開けると初秋の陽光が暖かく照らしつける。光を喪い、絶望に叩き落され、復讐だけが残されたこの身。それでも。

 理想を求めて、つたなく足掻く事を。
 友と語る、何気ない日常を楽しむ事を。
 そして、刹那とはいえ人を愛しむ事を。

 そんな人間らしい事が、まだ出来るのを知った。いや違う。喪っていたのを、この軍が取り戻してくれた。
 刻限の時は近い。だが達しても、きっとまた新たに歩んで行けるだろう。

 そうして高いびきの騎士を残し、私達は慌しい朝へと踏み出していった。
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